遺産分割と遺産分割協議書の作成

相続財産一覧表を基に、各相続人が相続する財産を決定します。
遺産分割協議は法定相続人のみ参加できます。
遺言書の有無と相続人の関係で遺産分割の難易度は異なります。
遺言書は遺産分割協議に優先しますが、相続人全員の同意より変更できます。
法定相続割合での分割は現実的ではありません。
遺産分割協議書には一定の書き方があります。

遺産の分割方法

わざわざ遺産分割協議をするのはナゼ?

法定相続割合で決まっているんじゃないの?

遺産は相続人で自由に分割するのが基本なのよ。
法定相続割合は、法定相続人の相続保証率の意味合いになるわね。

遺産分割にはどんな方法があるの?

現実的なのは遺産分割協議による分割ね。
遺言書があったときは、遺産分割協議との併用になるわ。

相続する財産は、できるだけ相続割合による共有を避け、財産ごとに相続人を決めることが重要です。遺産の分割方法は、次のとおりです。

  • 遺産分割協議による方法
  • 遺言書による方法
  • 法定相続割合による方法

遺産分割協議による遺産の分割

遺言書がなかったので、相続人で相談して遺産を決めようと思ってる。
相続人は誰でもよいの?

遺言書がなかったときは、法定相続人で相談して自由に分割ができるのよ。
でも、法定相続人以外の人を相続人にはできないわ。

故人の妹が独りなので、いくらかでも遺産を分けたいんだけど...

故人に子がいたら、故人の兄弟は相続人にはなれないわ。
故人が予め遺言書で指定しておく必要があるの。

遺産分割協議は、遺言書がない場合に適用される一般的な方法です。
遺言書があるとき、法定相続割合によるときでも、遺産分割協議が必要になることがあります。

遺産分割協議の参加者

遺産分割は、法定相続人の全員が参加した協議で、全員が賛成した結果で成立します。
法定相続人と包括受贈者以外は協議に参加できません。
相続人の代理として参加できるのは弁護士だけです。

協議結果を遺産分割協議書に記載する

協議の結果は、遺産分割協議書に記載します。
渋々でも全員が合意すれば協議成立です。
全相続人が一同に会する必要はなく、合意と協議書への署名押印で足ります。

遺言書との関係

遺言書に従う場合、遺産分割協議は不要です。
遺言書とは異なる分割をしたいときは、条件を満たせば遺産分割協議による分割が可能です。

法定相続人以外の人に相続させるには、遺言書による指定が必要です。
遺産分割協議では法定相続人以外の人を相続人にすることはできません。
また、遺言書があっても、遺産分割協議が必要になるケースがあります。

遺言書による遺産の分割

遺言書があったら、必ずそれに従わないといけないの?

相続人全員が納得すれば、遺言書を無視できるわ。
受け取る財産を指定された法定相続人以外の人は、相続放棄しかできない。

遺言書に納得できないときは?

法定相続人は、法定遺留分や生前贈与の持戻しも請求できるのよ。

遺言書に「兄弟3人で1/3ずつ」なんて書いてあったら...
1/3ずつは納得だけど、現実的に分けられないし。

改めて遺産分割協議により納得できる分割を話し合いましょう。
財産ごとではキレイに1/3ずつにならないときは、お金を払って均衡させる方法があるわ。

有効な遺言書

家庭裁判所で検認を受けたもの、公正証書として作成されたもの、秘密遺言証書としたものに限られます。
それぞれ指定の作成方法があります。

遺言書の効力

遺言書≧遺産分割協議>法定相続割合

遺言書の効力は最優先ですが、遺産分割協議で別の分配をすることができます。
遺言書でのみ、法定相続人でない人も財産の受取人に指定できます。
遺産分割協議では、法定相続人でない人を受取人にすることはできません。

包括受遺者と特定受遺者

包括受遺者は、遺言書で「財産の〇〇%」のように全財産の割合を指定された人です。
特定受遺者は、遺言書で「地番〇〇の土地」のように具体的な財産を指定された人です。
包括受遺者は、登記申請と相続税申告では法定相続人に準じた扱いになります。
なお、どちらにも法定遺留分と代襲相続はありません。

受遺者遺言書の指定負債の引継ぎ遺産分割協議遺贈の放棄相続税不動産取得税
包括受遺者全財産の割合あり参加可3ヶ月以内加算なし非課税
特定受遺者具体的な財産なし参加不可なし2割加算課税
包括受遺者特定受遺者の違い

遺言書とは異なる分割をするとき

次の2つの条件を満たせば、遺言書とは異なる遺産分割が可能です。

  • 法定相続人以外の受遺者が、相続放棄に同意している
  • 法定相続人全員が同意している

この場合、遺産分割協議により、法定相続人だけで遺産分割が可能です。
法定相続人以外の受遺者が反対した場合は、遺言書通りの分割となります。
遺産分割協議では、法定相続人以外の受遺者の財産を変更することはできません。

法定遺留分の請求

法定相続人となる配偶者と子・孫、または両親は、遺言書にある自身の相続財産に不満があれば、法定遺留分を請求できます。
法定遺留分は、法定相続割合の1/2です。
被相続人の兄弟姉妹には、法定相続人となった場合でも法定遺留分はありません。

遺言書の破棄

法定相続人が遺言書を故意に破棄し、それが露見した場合は、相続権を失います。

結局、遺産分割協議が必要

遺言書に記載のない財産があれば、その財産の相続人を決めた遺産分割協議書を作成する必要があります。
また、法定相続割合と同様に、遺言で指定された分割方法が財産に対する持分の割合であれば、改めて遺産分割協議により財産ごとの相続人を決めた方がよい場合があります。

法定相続割合による遺産の分割

そんなに財産もいらないし、分割協議も面倒だから法定相続割合でいいかな。

預金だけならまだしも、不動産の共有は次の相続でややこしくなるのよ。
分解できない動産はどうするの?
法定相続割合による分割は、お勧めできないわ。

持分割合による分割には不都合がある

法定相続割合は、相続人の範囲と各相続人の持分割合を定めています。
始めから法定相続割合を前提に協議できるのは、相続人の関係が良好な証でしょう。
逆に協議が整わず、法定相続割合や法定遺留分の話になることもあるでしょう。
ただし、法定相続割合をそのまま適用する場合は、分割協議も協議書の作成も不要ですが、各相続人に不都合が発生します。

  • 全ての銀行の凍結解除手続きそれぞれに、全相続人の署名捺印・印鑑証明書の添付が必要
  • 不動産は、全相続人の共有になる
  • 貴重品や株式など、物理的な分割や共有ができないものがある

やはり、遺産分割協議が必要

上記のような不都合があるため、法定相続割合に近い率になるように、分割協議の上で各財産を相続人一人に割り当てた方がよいです。
時価の高い土地一つと少額の預金だけなど平等に分割できないときは、高額な財産を受け取る相続人から、少額な財産を受け取る相続人にお金を払って均衡させる方法(代償分割)があります。

配偶者居住権の設定

配偶者居住権ってできたんだよね。

配偶者が被相続人の家に住み続けられる権利のことよ。

令和2年4月1日以降の相続開始に適用された制度です。
被相続人が所有していた財産ではなく、遺言書または遺産分割協議によって、配偶者に与えることができる権利です。

配偶者居住権の設定と評価
令和2年4月1日以降の相続開始に適用された制度です。被相続人が所有していた財産ではなく、遺言書または遺産分割協議によって、配偶者に与えることができる権利です。土地建物を子が相続するが、配偶者がその建物に住み続けるときに適用を検討します。

遺産分割協議書の作成

遺産分割の話し合いが円満に終わったぞ!

よかったね。
そしたら、遺産分割協議書を作成しましょう。
書式は法務局のサイトにありますよ。

遺産分割協議書は、相続手続きの中で中核となる書類です。

遺産分割協議書の書式

遺産分割協議書の書式は、多くのサイトで公開・解説されています。
記載する内容は決まっていますが、言い回しや財産の記載順序などに細かい規定はありません。
なお、遺産分割協議書には、財産の価額は記載しません。
また、収入印紙の貼付は不要です。

遺産分割協議書の様式

用紙はA4サイズを基本とし、裏面は使用しません。
A4に収まらないときは、A3サイズとします。
A3に収まらないときは、A4サイズとして綴り、ページを振り、契印を押印します。
通常は1枚に収まるサイズにします。

遺産分割協議書に使用する文字

元号は、戸籍謄本等に合わせ、和暦が望ましいです。
金額、数量、年月日、番号の数字は、アラビア数字(0・1・・・9)とします。
住所・地番などの所在は、戸籍謄本や不動産登記簿謄本の表示(二丁目4番10号)に合わせ、漢数字とアラビア数字が混在します。
金額、数量は半角数字(3,000円)、年月日は1桁だけ全額(令和2年10月3日)、所在や不動産番号は全て全角にすると見やすいです。

遺産分割協議書の構成

遺産分割協議書は、次の段落で構成されています。

遺産分割協議書の構成

表題

表題は、「遺産分割協議書」です。

被相続人の情報

被相続人の氏名、死亡日、最後の本籍(住所)などを記載します。
ここに、「共同相続人氏名」項目を設け、相続人全員の氏名を列挙することもあります。

協議成立の宣言

「被相続人の死亡により、次のとおり遺産分割の協議が成立した」旨の文書を記載します。

分割の明細

相続人ごとに、取得する財産を列挙します。

相続人ごとに括る

「相続人 〇〇 〇〇は、次の財産を取得する。」の文言の下に、取得する財産のリストを記載します。
なお、財産の価額は記載しません。

同種のものを括る

「上記建物内にある家財一式」のように、相続財産一覧表には品目があっても、相続人と種類が同一のものは、一括して表示することができます。

「その他全て」の記載ができる

「相続人 相続次郎は、相続一郎が取得する財産を除く全ての財産を取得する」のような言い回しができます。
同様に、複数の相続人がいても、一人の相続人が財産を全て取得するときは、「相続人 相続一郎が全ての財産を取得する」のような書き方ができます。

その他の記載項目

遺産分割に当たっての特記事項

遺産分割の前提となった条件など、特に明示しておきたいものも併記できます。
例えば、被相続人の生前の生活支援に要した費用、今後の四十九日・一周忌などにかかる費用を誰が負担するかを記載します。

作成通数の表示

「本協議書を〇通作成し、各1通ずつ保持する。」などと記載します。

署名捺印

協議が成立した年月日を記載します。
続けて、各相続人が住所氏名を自署して実印を押印します。

遺産分割協議書の記載例

法務局作成の記載例

法務局へ事前相談に伺ったときにいただいたものです。

法務局作成 遺産分割協議書の記載例

法務一郎さんが取得する財産を列記し、その他の財産を法務花子さんが取得する例です。
<その他の例>で、法務一郎さんが複数の相続人がいても単独で全て取得する例が記載されています。

遺産分割協議書の記載例

遺産分割協議書の記載例

相続人2名のうち、1名が全てを取得する例です。
A4サイズ2枚のため、A3サイズに印刷しています。

分割の明細の記載例

相続人ごとに、取得する財産を列記する

「相続人 〇〇 〇〇は次の財産を取得する。」との文言の下に、取得する財産のリストを記載します。

(例)

相続人 相続太郎は次の財産を取得する。

  • 土地 (土地の表示)
  • 建物 (建物の表示)
  • 上記建物内の家財一式

相続人 相続次郎は次の財産を取得する。

  • 〇〇銀行の全ての預金
  • △△銀行の全ての預金

預金関係の表示

分割する内容により、いくつかの書き方があります。

相続人一人が全ての預金を取得被相続人の全ての預金
相続人一人が〇〇銀行の全ての預金を取得〇〇銀行の全ての預金
相続人一人が〇〇銀行の特定の預金口座を取得〇〇銀行△△支店 普通預金0000000
遺産分割協議書 分割の明細 預金の記載例

相続人一人が全ての預金を取得する場合に、預金口座を全て列挙してもかまいません。

不動産関係の表示

不動産は、土地・建物を分けて列挙します。
不動産登記簿謄本の記載を正確に転記します。

表示する項目

不動産の表示では、次の項目と順番で記載することが一般的です。

(例)

土地所在〇〇県〇〇市〇〇町一丁目
地番1番1
地目宅地
地積999.99㎡
建物所在〇〇県〇〇市〇〇町一丁目1番地
家屋番号1番の1
種類居宅
構造木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積99.99㎡
遺産分割協議書 分割の明細 土地の記載例

土地の面積は「地積」で、「地籍」ではないので誤変換に注意してください。
建物の面積は「床面積」です。
なお、土地の地番と家屋番号には、似ていても関連がないことに注意してください。

共有名義の土地があったとき

共有名義の土地につていは、持分を記載することが必要です。

(例)

土地所在〇〇県〇〇市〇字〇〇
地番0000番0
地目保安林
地積9999㎡ 此持分10分の1
遺産分割協議書 分割の明細 共有土地の記載例

附属建物があったとき

登記情報 附属建物の表示例

附属建物が登記されているときは、その建物も列記します。
記載場所は、主建物のすぐ下です。

(例)

建物所在〇〇県〇〇市〇〇町一丁目1番地
家屋番号1番の1
種類居宅
構造木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積99.99㎡
附属建物の表示
符号
種類納屋
構造木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積11.11㎡
遺産分割協議書 分割の明細 附属建物の記載例

Wordでの作成例

遺産分割協議書 Wordでの作成例

行頭揃えや項目の均等割り付けの見栄えをよくするため、表を多用しています。
行間のオプション設定で、うまく改ページできるよう調整しています。
Excelの場合、列幅の違う表を1ページに収めることが難しいので、Wordでの作成が適しています。

各相続人から受け取る書類

遺産分割協議書が作成できた。

各相続人に送って署名と押印をもらいましょう。
これから必要になる書類も一緒に依頼しておきましょう。

相続手続きに必要となるもの

遺産分割協議書への署名・押印と共に、今後の手続きで必要となる書類の取得と送付を依頼します。

  • 住民票
  • 戸籍謄本
  • 印鑑証明
  • 相続税を支払う相続人のマイナンバーカードのコピー

住民票・戸籍謄本・印鑑証明は、それぞれ3通ずつ取得してもらいます。
登記申請に添付・相続税申告に添付・相続手続きの資料として保管するためです。
戸籍謄本は、相続人が転籍していれば、被相続人の戸籍から分籍したことが記載されている除籍謄本まで、全て取得してもらう必要があります。
印鑑証明は、口座凍結の解除手続きに使用できる期限が、発行日から6ヶ月(借入及び配偶者居住権があれば3ヶ月)以内となっているので、最新のものを依頼しましょう。

なお、上記の書類はマイナンバーカードがあればコンビニでも取得できますが、法務局での原本還付には適しません。