遺産分割協議に備え、相続財産を調べて価額をつけます。
登記関係の書類は、Web上で申請・取得します。
確定した財産は、相続財産一覧表(財産目録)にまとめます。
生前贈与を受けた相続人がいるときは注意が必要です。
概要
相続する財産ってどうやって決めるんだろう...
現預金や動産・不動産など、故人が持っていたもの全てね。
でも、その価値ってどうやって決めるの?
財産を受け取る人から見た価値がいいわね。
売る訳にいかない財産なら、簿価でいいかもしれない。
いずれにせよ、相続人全員が納得できる額にすることが大切ね。
財産を調べて価額を付けます。
売却予定の財産なら、想定売却価額が適しています。
事業用資産などであれば、土地は買った価額、建物は固定資産税評価額、機械や備品は償却後の価額(償却資産税評価額)でよいでしょう。
各相続人が納得できる価額にすることが大切です。
相続対象になる財産とは
財産の種類
相続対象 | 相続発生時点で、被相続人が所有していた財産 |
---|---|
主なプラスの財産 | 現金・預金・有価証券、動産・不動産、会員権など |
主なマイナスの財産 | 未払金・借入金・保証など |
全ての財産に価額を付ける
現金・預金以外の財産は、何らかの方法で「評価」することで、財産の価値を「価額」として定量化します。
なお、相続財産一覧表上の財産の価額は、遺産分割協議の場に提示する金額で、登記申請や相続税申告に使う財産の価額は、別途評価することになります。
相続財産一覧表を作成する
確定した財産をリストアップし、遺産分割協議に使用する相続財産一覧表(財産目録)を作成します。
相続財産の把握漏れ
相続財産の調査時に、所有している証拠がないと把握漏れになってしまう場合があります。
預金の残高証明書を取得する
預金は残高証明書が必要になるんだね。
必要な書類を持って窓口へ行くのが一番確実な手続き方法よ。
葬儀後に、預金取引の有無と内容、おおよその残高を把握しておきました。
今度は、銀行が発行する正式な残高証明書を取得します。
持ち物
相続人に関するもの
- 戸籍謄本
- 戸籍の附表
- 住民票
- 印鑑証明
- 免許証等
- 実印・認印
被相続人に関するもの
- 住民証の除票
- 出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 戸籍の附表
- 相続関係説明図
預金に関するもの
- 預金通帳・キャッシュカード
- 銀行印
- 定期預金証書
- その他、取引に関するもの
銀行の取引支店を訪問する
訪問先は、取引口座のある銀行の支店になります。
遠方にあるときは、宿泊することになるかもしれません。
訪問できないときは、上記の書類を郵送し、残高証明書の発行依頼書を郵送で送ってもらい、記入して返送することになります。
不明点の問い合わせや、記入に不備があると余計に時間がかかってしまします。
できるだけ直接訪問するようにしましょう。
残高証明書は相続開始日現在のもの
残高証明書の証明日は、手続きに訪問した日ではなく、相続発生日とします。
なお、多額の預金があるときは、証明日時点での解約利息の表示も依頼します。
ただし、現在は低金利なので、億単位の定期預金でもない限り、実務上はなくても問題ありません。
出資金も証明してもらう
信金、信組、農協に口座があれば、出資金がある可能性があります。
これも併せて残高証明書に記載してもらいます。
手続き当日は依頼書の提出のみ
手続きには、発行依頼書の記入と待ち時間を合わせて30分~1時間程度かかります。
待ち時間の間に、他の銀行での手続きを掛け持ちすることもできます。
ほとんどの銀行は、当日は窓口での身分確認の後、依頼書の記入と提出だけで、残高証明書そのものは後日郵送で受け取ることになります。
動産を確定する
残された家財道具をどうするか、だ。
もらっても困るとか、むしろ処分費の方が気になる場合もあり得るかも。
売れそうなものは、買ってもらえる額にしましょう。
貴重品・家財・農機具・車両などが該当します。
相続税の計算上では、0円評価や一式いくら、でも評価できますが、実際の遺産分割では、処分費の負担も問題となるので、詳しくリストアップします。
評価額は、想定売却額とすることが一般的です。
処分費用も見積りで計上しておきましょう。
不動産を確定する
土地は近隣の相場を参考にしていいのかな?
相続した後に売ってしまうなら、近隣の相場でいいわ。
相続税では別の方法で評価するので、必要なら計算しておく必要があるわね。
不動産の価額は一物五価と言われ、相続手続きでも「実勢価額」(時価)、「路線価」、「固定資産税評価額」の3つが登場します。
不動産登記簿謄本・公図・地積測量図を取得する
名寄帳に記載された土地・建物の登記内容を確認します。
登記内容の確認方法は3つあります。
なお、現在の登記簿謄本は、「登記事項証明書」が正式名称です。
登記簿謄本には、公簿面積と所有権・所有権以外の権利が記載されています。
公図(地図情報)は、土地のおおまかな形状と周辺土地の地番が記載された地図です。
地積測量図は、直近の売買などて添付された測量図で、ない場合もあります。
申請先 | 手数料決済 | 取得するもの |
---|---|---|
法務局の窓口 | 収入印紙 | 不動産登記簿謄本 公図 地積測量図 |
登記情報提供サービス | クレジットカード | 登記情報(PDF) 地図情報(PDF) 地積測量図(PDF) |
登記・供託オンライン 申請システム | インターネットバンキング ATM(Pay-easy) | 不動産登記簿謄本 公図 地積測量図 |
法務局へ出向く
近隣の法務局で、全国の登記簿謄本などが受け取れます。
メリットはパソコンを使わないこと、デメリットは平日に窓口へ出向くことです。
手数料はWeb申請と比べて多少高いです。
登記情報提供サービスを利用する
Webから、登記情報が記載されたPDFがダウンロードできます。
一時的な利用者登録で利用でき、手数料の決済はクレジットカードです。
メリットは、手続き後すぐに登記内容を確認できることです。
このサービスを利用して、所有者や抵当権の有無を確認しておきましょう。
また、不動産番号を確認しておくと、正式な登記簿謄本などの交付申請が楽になります。
なお、Web上であっても申請は平日の午前8時30分から午後9時まで、ダウンロードした登記情報は登記簿謄本の代用にはなりません。
登記・供託オンライン申請システムを利用する
Webから登記簿謄本などの交付申請ができます。
交付申請だけであれば、専用ソフトのインストールは不要です。
利用者登録が必要で、手数料の決済はインターネットバンキングか、ATMです。
メリットは、法務局の窓口へ出向く必要がないことです。
申請した謄本等は、2~3日で郵送されてきます。
なお、Web上であっても申請は平日の午前8時30分から午後9時までです。
相続対象の不動産に漏れがないか確認する
「名寄帳」「評価証明」「固定資産税の納税通知書」を突き合わせて、相続対象の不動産に漏れがないか確認します。
固定資産税が非課税の共有土地がないか注意します。
また、登記情報提供サービスを利用し、相続対象の周辺の土地・建物の所有者も確認しておくと安心です。
不動産に価額をつける
遺産分割協議では、土地は売却想定価額である、「実勢価額(時価)」が適しています。
建物は、税務上は固定資産評価額や減価償却後の残存価格を使いますが、遺産分割協議では築20年で0評価とする残存価格が妥当でしょう。
むしろ、土地の売却を前提としている場合は、建物の解体費用を見込む必要があります。
農地や山林など、時価を見込むことが難しい場合は、固定資産税評価額÷0.7とすることが一般的です。
営農も相続する場合は、農地を継続して所有すると考えられるので、売却想定価額は合いません。
なお、保安林など固定資産税が非課税となっている土地は、実質的に売買できないので、0評価になります。
不動産は、将来売却するか・保有するかで相続人にとっての価値が変わります。
他の相続人に、不当に高い・低い評価と受け取られないような方法で評価します。
また、相続税の納付額も含めて検討するときは、相続税上の評価額と各相続人の税額を計算しておきます。
有価証券を確定する
株式があった場合はどうしたらいいんだろう?
投資としての株式なら市場での取引価額になるわ。
経営者として持っていた株式なら、会社や税理士と相談することになるわね。
時価のある有価証券を評価する
銀行や証券会社から購入した、投資信託や株式などの金融商品が該当します。
これらには、最新の取引価額を付けます。
取引価額は、ヤフーなどで検索できます。
時価のない有価証券を評価する
非上場会社の株式です。
被相続人が会社経営者や役員だった場合は、その会社の株式を持っている可能性があります。
株式の相続には譲渡制限は適用されませんが、会社から売り渡し請求を受ける場合があります。
遺産分割協議では株式の評価額よりも、誰が株式(経営)を引き継ぐのかの話し合いになるでしよう。
なお、相続税の計算では会社の規模や、相続人の立場による評価方法が規定されています。
株式を相続した相続人は、その評価額に応じた相続税を支払うことになります。
また、相続開始前に準備していれば納税猶予の特例を適用できます。
その他の有価証券を評価する
信金や信組などの出資金は額面になります。
ゴルフ会員権は、市場での取引価額や預託金の返還額が基になります。
贈与の有無を確認する
相続人で生前贈与を受けていた人がいると、不公平になるんじゃないかな...
贈与については、相続税法と民法にそれぞれ規定があるのよ。
贈与は他の相続人が納得できないと、トラブルになる恐れがあるわね。
相続税上では贈与された財産を、一部加算する規定があります。
民法上、法定相続人は贈与を受けた相続人の相続分を減らすことができます。
相続税上の持ち戻し
相続税の規定に該当する贈与について、相続の開始前3年以内に被相続人から相続人に贈与された金額は、相続財産に加算する必要があります。(相続税上の持ち戻し)
該当する贈与がないか、全ての相続人に確認します。
他の相続人にオープンにするとともに、相続税の計算時に忘れずに加算するためです。
なお、この贈与を隠して(隠されて)相続税を申告し、その後の税務調査で指摘された場合、悪質な行為とされる可能性があります。
また、相続税申告に必要になるため、贈与契約書や贈与税の申告書控・納付書控があれば入手します。
相続時精算課税の適用についても確認します。
特別受益の持戻し
贈与を不公平だと感じた法定相続人が要求できる権利です。(民法上の持戻し)
贈与を受けた期間は限定されません。
法定相続人の権利であって、要求しないことができます。
持戻しは、被相続人が事前に免除することができます。
- 持戻し後の相続財産=(贈与+相続財産)×法定相続割合-贈与
ただし計算結果がマイナスでも、持戻し後の相続財産が0になるだけで、贈与を受けた分を戻すことはありません。
【例】
(前提)
子A 生前贈与 20,000
子B 生前贈与 なし
相続財産 10,000
法定相続割合による分割
相続人 | 持戻しなし・免除 | 持戻しあり |
---|---|---|
子A | 10,000×0.5=5,000 | (20,000+10,000)×0.5-20,000=△5,000→0 |
子B | 10,000×0.5=5,000 | 10,000- 0=10,000 |
法定遺留分のための持戻し
遺言書の指定に関わらず、法定相続割合の1/2まで財産を取得できる権利です。
法定相続人の権利であって、要求しないことができます。
法定遺留分の計算では、被相続人による持戻しの免除の有無に関わらず贈与を加算します。
【例】
(前提)
子A 生前贈与 20,000
子B 生前贈与 なし
相続財産 10,000
子A 遺言書による相続財産 10,000・持戻し免除
子B 遺言書による相続財産 なし
相続人 | 法定遺留分の請求なし | 法定遺留分の請求あり |
---|---|---|
子A | 遺言書により10,000 | 10,000-7,500=2,500 |
子B | 遺言書により0 | (20,000+10,000)×0.5×0.5=7,500 |
相続財産一覧表を作成する
やっと財産を調べ終わった。
相続財産一覧表(財産目録)にまとめましょう。
必要なら、相続税上の評価額も併記するとわかりやすいわね。
相続財産一覧表は、被相続人のプラス・マイナスの財産の他、葬儀費用や、被相続人に関わる今後の収支も見込んだものにします。
分割協議の席で話題になるであろう収支を網羅し、協議が円滑に進められるための資料にします。
相続財産一覧表の書式
相続財産一覧表は、相続財産目録とも呼ばれ、特に規定された書式はありません。
インターネットで検索し、使いやすい書式を利用すればよいと思います。
記載する内容
プラスの財産
現預金や不動産に加え、各相続人の贈与を受けた額も記入します。
受け取った香典もオープンにした方が好ましいです。
マイナスの財産
相続財産一覧表のマイナスの財産は、相続税上の費用に限りません。
- 支払済みの、被相続人の持ち家の維持管理費用
- 四十九日や墓誌彫刻などの祭祀費用
- 無駄な財産の処分にかかった費用
- 相続手続きのため、代表相続人が負担した諸経費
相続税上の財産との関係
遺産分割協議と相続税申告の違い
遺産分割協議は、全相続人が財産の配分について合意するもので、財産の額は全相続人が納得するものである必要があります。
相続税は、各相続人の意向や事情に関わらず、規定の方法により機械的に財産の金額と税額を計算をします。
相続財産一覧表は、相続税上の財産を全て含み、さらに対象外の財産も記載していますが、作成する目的が異なるので、相続税上の財産と一致している必要はありません。
相続財産一覧表に記載する財産の内容と金額は、あくまで遺産分割協議を円滑に行うことを目的として決めます。
この点は、他の相続人にも理解してもらう必要があります。
相続税上の財産評価
相続税上の財産は、評価方法が規定されています。
評価額は、国税庁が公表する評価明細書に記入して計算します。
- 取引相場のない株式(出資)の評価明細書
- 特定株式等の判定及び比準要素等の金額の計算等の明細書
- 上場株式の評価明細書
- 登録銘柄及び店頭管理銘柄の評価明細書
- 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書
- 配偶者居住権等の評価明細書
- 一般動産及び船舶の評価明細書
- 定期借地権等の評価明細書
- 市街地農地等の評価明細書
- 特定路線価設定申出書
- 山林・森林の立木の評価明細書
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の評価明細書
- 営業権の評価明細書
- 定期金に関する権利の評価明細書
- 信託受益権の評価明細書
遺産分割協議の場で、相続税額まで含めた検討をするのであれば、評価額はもちろん特例の適用可否、税額の加減算調整があるので、仮に計算しておく必要があります。