法定相続人の確認と相続関係説明図の作成

戸籍謄本により相続人を確認し、相続関係説明図を作成します。
民法では法定相続人を規定しています。
法定相続人には法定相続割合があり、法定遺留分も認められます。
法定相続人以外の人は遺言書の指定により相続できます。

相続人が決まったら、相続関係説明図を作成します。

法定相続人となる条件と順位

法定相続人って聞いたことがある。
親と兄弟で半分づつ、とかだよね。

そうね。
法律で相続人になる順番と割合が決まっているのよ。

どうやって確認するの?

故人の戸籍謄本を遡って健在な親族をリストアップしていくのよ。

親が離婚・再婚していたときとか、養子はどうなるんだろう?

それぞれ要件が決まっているわ。

被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本を参照しながら、相続人を確認します。
血縁関係が基本ですが、相続人となる要件が決められていることがあります。

相続人となる条件と順位

相続人となる条件と順位は、民法に規定されています。

法定相続人と順位

血族関係

再婚した父を持つ子から見た相続関係

相続は、「血族関係」によるので、現在の戸籍上の親子関係ではなく、出生時の父母が基準になります。
このため、子は離婚した実の親に対する相続権があり、再婚による新しい親に対する相続権はありません。

順位と法定相続割合

配偶者は常に相続権があります。
第一順位から順に、属する親族があればその順位の相続人のみに相続権が発生し、下位の順位の相続人には相続権は発生しません。
各順位に属する相続人が複数いる(両親・兄弟姉妹)ときは、均等按分となります。
子と兄弟姉妹には、代襲相続があります。
被相続人の兄弟姉妹は、相続税が2割増しになります。

相続権生存する親族配偶者兄弟
配偶者のみ配偶者全て
配偶者と子配偶者・子・兄弟1/21/2
子のみ子・兄弟全て
配偶者と親配偶者・親・兄弟2/31/3
親のみ親・兄弟全て
配偶者と兄弟配偶者・兄弟3/41/4
兄弟のみ兄弟全て
法定相続人のパターンと法定相続割合

遺産を受け取る権利

分割方法法定相続人その他の親族・他人
遺産分割協議
遺言書による指定
遺言書の内容を変更その他の親族・他人の
相続放棄が必要
相続放棄のみ

遺産分割協議に参加し、遺産を受け取る権利を持つのは、法定相続割合を持つ相続人(法定相続人)だけです。
遺産分割協議では、法定相続人以外に財産を渡すことはできません。
遺言書で法定相続人だけが指定されているときは、遺産分割協議で内容を変更できます。

法定相続人でない親族や他人に相続させるには、遺言書で指定します。
また、遺言書で指定された法定相続人でない親族や他人の受取分を、遺産分割協議で変更することはできません。
遺言書で指定された法定相続人でない親族や他人が相続放棄すれば、法定相続人だけで改めて遺産分割協議ができます。

法定遺留分

法定相続人となる配偶者と子・孫、または両親は、遺言書にある自身の相続財産に不満があれば、法定遺留分を請求できます。
法定遺留分は、法定相続割合の1/2です。
被相続人の兄弟姉妹には、法定相続人となった場合でも法定遺留分はありません。

法定遺留分を請求できるのは、相続開始があったことを知った日から1年間です。

推定相続人と法定相続人

推定相続人

被相続人となる人が亡くなれば、法定相続人となる関係にある人で、相続欠格または排除されていない人です。

相続欠格と排除

法定相続人が次の条件に当てはまるときは、相続欠格となり相続権を失います。

  • 被相続人となる人を殺害した
  • 被相続人が作成した遺言書を廃棄した

排除は、被相続人となる人が家庭裁判所に申請し、推定相続人の相続権のはく奪を認められることです。

相続放棄するとき

相続放棄すると、その相続人はいないものとして扱われます。
配偶者と子の全員が相続放棄すると、被相続人の親または兄弟へ、自動的に相続権が移ります。
相続放棄するときは、第三順位までに該当する親族全員に連絡するのが原則です。

被相続人に家庭があった場合

第一順位を検討する

一般的なパターンです。

  • 被相続人に配偶者があれば、必ず相続人になる
  • 被相続人に子があれば、必ず相続人になる

配偶者の要件

相続権のある配偶者は、当然ですが生存している必要があります。
被相続人の配偶者の親族に相続権が発生することはありません。

子の要件

被相続人の「子」となるのは、次のとおりです。

  • 被相続人の子
  • 被相続人の前妻の子
  • 被相続人の認知された子
  • 被相続人の養子縁組した子
    被相続人の養子に出した子

前妻には相続権はありません。
認知された子の母にも相続権はありません。
養子の実父母にも相続権はありません。
特別養子縁組として養子に出した子にはなりません。
配偶者の連れ子を養子にしたときは、実子と同じ扱いになります。

代襲相続

法定相続人となる人が既に亡くなっていた場合、その相続人に子(厳密には直系卑属)があれば、同じ順位で相続人となります。
戸籍上の子の子(被相続人から見て孫)の他、前妻との婚姻中に生まれた子の子、養子縁組後に生まれた養子の子が代襲相続することができます。
もちろん、法定相続人が生きていれば、その子が法定相続人になることはありません。

子の法定相続割合

戸籍上の子、前妻の子、認知された子、養子に法定相続割合の差別はありません。
法定相続割合は子の間で均等按分になります。

被相続人に子・孫がいない場合

第二順位を検討する

配偶者がいれば、配偶者と両親が相続人です。
配偶者がいなければ、被相続人の両親が相続人となります。

被相続人に子・孫・両親がいない場合

第三順位を検討する

配偶者がいれば、配偶者と兄弟が相続人です。
配偶者がいなければ、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人の兄弟姉妹には、代襲相続が適用されます。

相続税の2割加算

被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人含む)が相続したときは、相続税が2割増しになります。

相続関係説明図を作成する

法定相続人が確認できた!

そしたら、相続関係説明図を作りましょう。
書式は法務局のサイトで公開されてるわよ。

相続人が確定できたら、相続関係説明図を作成します。
登記申請や相続税申告で添付するものです。
また、銀行などに被相続人と自分の関係を説明するのにも便利です。

書式を参照する

不動産の移転登記に必須なので、その書式で作成します。
書式は、司法書士のサイトなどで多く公開されていますが、法務局のサイトでも提供されています。

主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例:法務局

相続関係説明図の作成例

A4サイズで作成する

法務局で指定されている用紙のサイズはA4です。
法務局の書式例はA4縦ですが、A4横でもかまいません。

本籍地・住所は正確に転記する

被相続人の本籍地と住所、相続人の住所は、それぞれ戸籍謄本と住民票の記載どおりに転記します。
漢数字とアラビア数字が混在するので注意してください。

作成上のポイント

相続関係説明図の作成例
A 被相続人の住所と登記簿上の住所が一致しているか確認する

被相続人の住民票の除票の住所と、不動産登記簿謄本の所有者としての住所が一致しているか確認します。
一致していないときは、被相続人の戸籍の附表の【従前住所】と一致しているか確認します。
被相続人の戸籍の附表にも一致する住所がないときは、移転登記の申請までに、不動産登記簿謄本の住所地の市区町村から、不在籍不在住証明を取得する必要があります。

B 相続人の書き方

移転登記の申請で、不動産を取得する相続人には「(相続)」を、取得しない相続人には「(分割)」と記入します。
なお、不動産を取得する相続人が複数いるときは、その相続人全てに「(相続)」と記入します。

C 被相続人の配偶者

被相続人の配偶者が亡くなっていても省略せずに記載します。

D 原本還付用のチェック欄

「相続を証する書面は還付した」欄を表示のように記入します。

作成方法

作成は、Word・Excel、または手書きでもかまいません。

相続関係説明図 Excelでの作成例

連絡の取れない相続人がいるとき

父と前妻の間に子供がいたんだけど...
連絡するの、なんかイヤだな。

そんなときは、司法書士に依頼しましょう。
第三者に入ってもらった方がお互い気を使わなくて済むわ。

戸籍の附表を取り寄せる

事情があり、連絡先のわからない相続人がいたときは、自分の身分を証明し、その相続人の戸籍の附表を取得して、住民票上の住所を確認することができます。

相続人へ郵便で連絡する

住民票上の住所へ、郵便で相続発生を伝える文書を送ります。
文面の例などは、司法書士のホームページで紹介されています。

司法書士または弁護士に依頼する

住民票上の住所では連絡が取れないとき、過去の経緯から紛糾が予想されるときなどは、司法書士または弁護士に依頼した方が確実かもしれません。
士業の方には、経験豊富な第三者として、また士業の威光をもって、市区町村や相続人との交渉に当たってもらう期待ができます。
なお、代表相続人の代理として、いさかいのある相続人と利害関係(遺産分割)の調整ができるのは弁護士だけです。
司法書士は、連絡先の確認と相続発生の通知、全相続人で合意済みの遺産分割内容を、協議書として作成する範囲に限られます。