実際に効果がある相続税対策は限られています。
意味のない対策やリスクを伴った対策もあります。
相続対策・節税対策を騙り、実は自社商品の販売を目論む者や、単なる特例を節税と称し、無知に付け込む者もいるので注意してください。
概要
相続税はできるだけ安くしたいな。
どんな対策があるの?
相続の開始前と開始後の対策があるわ。
資産運用とか、銀行に相談とか、よく聞くよね。
違うわ!、どちらも相続対策じゃない!
リスクや割高な手数料が潜んでいるのよ。
えっ、どういうこと?
本来の節税対策は、税法の特例や控除を上手に利用することだけなの。
資産運用は、投資や事業として検討するものなのよ。
そうか、自分のための資産運用と、親族のための相続対策は別物なんだね。
目的とリスクとコストをしっかり整理して、後で後悔しないようにしましょうね。
相続税の節税対策は、相続開始前と後のものがあります。
節税とは、予め公平に提供されている手段を正しく選択することを指し、特定のノウハウや秘策・奇策は存在しません。
節約のように努力や工夫で効果が上がるものではありません。
また、節税対策と資産運用は全くの別物です。
相続開始前の節税対策
相続開始前は贈与や生命保険がいいって聞くけど。
どちらも控除枠があるから確実ね。
ただ、贈与は相続時にモメないこと、生保は掛金より保険金が多いことが条件ね。
その他の対策はどうなんだろう?
非上場会社の株式なら、手続きが面倒だけど納税猶予や免除が受けられるわ。
その他はリスクや手数料があるから要注意ね。
確かに納税額は減るけど、それ以上に財産が減っちゃう可能性がある。
やらない方がいいってことか。
ある意味賭けね。
対策とは言えないわ。
相続開始前の相続税対策は、贈与・生命保険と資産運用などがあります。
贈与と生命保険は、税法の規定によるもので、確実な節税効果があります。
資産運用による節税対策はハイリスクです。
その他の対策は大した効果が期待できません。
生前贈与する
贈与税の非課税枠や、相続税と贈与税の税率の差分を節税できます。
贈与には、暦年贈与の他に「結婚・子育て資金の一括贈与」などがあります。
原則として、贈与税の申告や限度額を超えた部分の納付が必要です。
また、暦年贈与以外は銀行に専用口座の開設が必要で、使途が限定されます。
贈与を受けない相続人の理解がないと、持戻しを請求される恐れがありますが、免除も可能です。
生命保険を掛ける
基礎控除とは別の非課税限度額があり、その分節税できます。
もちろん、掛金が保険金と節税分を上回っていれば損になります。
経営承継円滑化法を利用する
相続財産に非上場会社の株式があれば、経営承継円滑化法に基づく特例の適用を検討します。
令和5年3月末までに、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき、「承継計画」を作成して都道府県知事の認定を受けます。
その後、所定の手続きをすることで相続税の納税猶予・納税免除の特例が適用できます。
土地活用する
宅地に新しくアパートや介護施設を建てることなどが広告では一般的ですが、お勧めできません。
アパートなどの建築費用・維持管理費用・将来の撤去費用は賃貸収入から回収するものですが、相続を意識するまでアパートなどが建っていないのは、その土地には賃貸需要がないからです。
もし、賃貸需要があれば、不動産・建設業者から既にしつこいアプローチがあったはずです。
不動産・建設業者からアプローチがなかったのは、賃貸収入が見込める周辺実績がないからです。
そこにアパートなどを建てれば、相続税の減額どころか、赤字物件を抱え込む可能性があります。
建築資金を借入で賄ったら、破綻の危険すらあります。
こちらから不動産・建設業者に相談すれば、建築資金の回収見込みに関わらず、しつこいアプローチを受けるだけです。
いわゆる土地活用は、相続税対策ではなく、事業投資として可否を検討すべきです。
しかし、市街地農地でがんばって営農していたが、引退を期に土地活用と相続税対策を考えるという場合なら、それまで不動産・建築業者も遠巻きに見ていただけでしょうから、賃貸経営も検討する価値ありです。
また、空き地を駐車場にする程度なら失敗しても傷は浅いですし、ロクに使っていない別荘を貸別荘にすることは、土地の評価減に有効です。
銀行に相談する
銀行に相談しても節税できません。
相談すれば、贈与の提案と抱き合わせで、銀行のメインの収益源である投資信託などの金融商品を勧められるでしょう。
金融商品は勧められてもキッパリと断りましょう。
金融商品は抜かれる手数料も高く、元本割れのリスクがあるので、土地活用と同じく、資産運用の一環として検討すべきです。
銀行の「信託」は、親族全員が信用できないので愛人にだけ財産を譲りたいとか、自分の死後も、将来に渡り長男とその孫一人に財産を独占させたいなどの特殊な希望を叶えるためなら、高い費用を払って利用する価値があります。
相続時精算課税を利用する
先に財産を贈与し、その分の税金を相続時までジャンプするものです。
現金を先渡しすると、将来の相続発生時に相続税の支払原資がなくなります。
贈与時の時価で加算するので、土地は相続時に地価が下がっていると相続税が増えます。
値上がりが期待できる土地でも、相続人は小規模宅地の特例を適用できません。
オーナー社長が株価の値上がりを見込んで贈与すれば、経営権も異動します。
もちろん、業績が悪化して株価が下がれば相続税が増えます。
緊急かつ止むを得ない事情があり、無税で財産を渡さなければならない場合でなければ、選択する方法ではありません。
養子を増やす
基礎控除額が増加し、相続税が減額できます。
ただし、効果は1人か2人分までです。
相続人が増える分、各相続人の取り分が減ってトラブルの種が増えます。
節税対策のためであることを承知の上で、養子になってくれる人の確保が大変です。
現金で土地を購入する
土地は時価の7割程度の評価になり、現金で渡すより相続税が減額できます。
ただし、購入時は不動産業者への仲介料・登録免許税・不動産取得税がかかります。
また、売却時は不動産業者への仲介料・譲渡所得に対する所得税がかかります。
特に、短期譲渡に対する税率は高くなります。
保有中は固定資産税もかかります
さらに、買った値段では売れない可能性もあります。
結局、不動産業者は確実に儲かりますが、相続人にとって収支が得かどうかは最後までわかりません。
墓地や墓石は非課税なので、豪華なものを購入すれば現金が減って相続税が減額できます。
ただし換金できない上に維持管理の負担が残るため、相続人に歓迎される手段ではありません。
住民票だけ異動する
小規模宅地の特例を適用するため、生活実態とは違った場所に住民票を異動させます。
調査でバレると、相応のペナルティーを受けることになります。
相続開始後の節税対策
相続開始後の対策ってあるの?
ハッキリ言って、ないわね。
特例や控除を活かせる遺産分割をすることくらい。
そうだよね。
相続対策って、生きているうちに親族のことを思ってやるものだよね。
親族みんなが、お互いに思いやりの心を持てば、自然と相続税も安くなるようにできてるのね。
相続開始後の節税対策は、相続税の特例を適法かつ有利な方法で適用することに限られます。
相続税の申告のしかたをよく見る
相続開始時点の状況で適用できる控除と特例を確認します。
特例は、「相続税の申告のしかた」に列挙されています。
遡ってどうこうできるものではないので、適用できるものをしっかり適用するだけです。
配偶者の「配偶者控除」、子の「小規模宅地の特例」をフルに活かせるような遺産分割をすることで、相続開始後でも税額を抑えることができます。
ものは言いようで、控除や特例を適用することを「節税対策」と謳っている税理士もいますが、それは単なる当たり前の申告に過ぎません。
銀行に相談する
銀行に相談しても節税できません。
コンサルタント契約しても、高額な手数料を取られる割に、主要な手続きは士業に丸投げです。
遺産分割協議で揉めると、それまでの手数料だけ取られて解約となります。
葬儀に費用をかける
盛大な葬儀にして葬式費用を増やすことで、相続税が減額できます。
当然ですが、節税効果より財産の減少額の方が多いので、やるだけ損です。
配偶者居住権を設定する
配偶者控除の枠が余ったときは、(必要性の有無に関わらず)配偶者居住権と敷地利用権を設定することで、その評価額分の相続税を減額できます。
ただし、子は二次相続で小規模宅地の特例が受けられないため、一次・二次相続のトータルでは相対的に子の納税額が増える可能性があります。
対策は慎重に
相続税対策は、政策として提供されている確実な方法と、リスクを取った危ない方法しかありません。
贈与と生命保険、その他の相続税の特例と控除以外は、目先の税額は減るが、それ以上に財産が減る可能性があります。
銀行・税理士、不動産・建設業者が得意とする対策などはなく、将来の節税額を保証してもくれないので、甘い提案・トリッキーな提案には十分注意してください。